INTERVIEW apa_editor

選ばれる作品の共通点とは? APAアワード2026 審査委員長 飯沢耕太郎氏×田中せり氏インタビュー

第54回日本広告写真家協会公募展 APAアワード2026のテーマは『鼓動』。9月の募集開始に先立ち、審査委員長の飯沢耕太郎氏と審査委員の田中せり氏を招き、インタビューを行いました。
テーマ『鼓動』について思うことや審査をする視点、選ばれる写真に共通するものとはーー?アワードへの応募を考えている方や、写真を志す方の参考になれば幸いです。

 

 今年のテーマ『鼓動』について、どのようなイメージを持たれていますか?

田中 私はテーマ決定には関わっていないのですが、『鼓動』はつまり、心臓のことですよね。人間だけじゃなくて、虫も含めて生き物全員が持っているもの。そう考えると、誰にとっても関わりのある普遍的なテーマだなと思います。

飯沢 そう、生命そのものだよね。ドキドキ、ワクワクみたいな…生命力っていうイメージが一番近いかな。

 

 

 審査でまず注目するポイントは?

飯沢 僕はやっぱり、ファーストインプレッションが大きいと思っているんです。最初の23枚を見たときに、「向こうから来る何か」が感じられるかどうか。そこでグッと引き込まれればOKですね。

田中 前回、初めて写真の審査を経験したんですけど、唯一の「写真の専門家ではない立場」から見たときに、まずは足を止めさせること、目を止めさせることが大事だと思いました。
次にタイトルを読む。その写真とタイトル、この2つの情報をつなぐ楽しさがあるかどうか。想像の余白がある作品は惹かれますね。距離が近すぎたり、ただ説明的になってしまうと、それ以上の広がりがない。逆に、いい距離感のタイトルは、作品を長く“気にさせる”力があると思います。

飯沢 意外に大事なのは、人間でいう「着ているもの」、つまり作品のパッケージ。ボロボロでも困るし、かっこつけすぎても違う。その写真らしい装いになっているかは見ますね。

 

 逆に、「こういう作品は落ちやすい」という例はありますか?

飯沢 タイトルは大きいよね。

田中 私、半分ぐらいはタイトルを手がかりに見ています。タイトルを見た瞬間、その人がどれだけ深く考えているのか、それとも表面的な面白さだけなのかが垣間見える。タイトルでどこまで飛躍できるかは大きいです。

飯沢 それと、APAアワードは最大8枚の組写真ですよね。他のコンテストみたいに100枚も見るこどができるわけじゃないからこそ、最初から最後まで見せ切る力が必要。1枚目で「わかっちゃう」作品はやっぱり選ばれにくいと思います。

 

 賞に選ばれる作品に共通するものがあるとすれば?

飯沢 昔、荒木(経惟)さんと一緒に写真を見ていたとき、とある作品を指して「この写真、品があるね」と言ったことがあって。一般的には品のある写真じゃなかったんだけど、荒木さんは「下品格」だっていうんですよ。ただの下品じゃなくて、下品でも品格があると。そういう作品は賞にふさわしいと思うし、「一等」であるべき作品ってやっぱり抜きん出てる。これは作品の格の問題ですね。

田中 私は「もっと知りたいと思えるか」が大事だと思います。分かりきらない作品って、人間関係と同じで、なぜか気になる。一次審査では表面的なかっこよさやインパクトが目立っていても、リアルの審査でプリントに向き合うと、後半では全く違う作品が興味深く見えたりするんです。
最初から全部わかってしまうと、もうそれ以上知りたくなくなる。写真ってその人の視点そのものだから、色々バレちゃう怖さもあるんですけど、それでも「もっと知りたい」と思わせる作品は強いですね。

 

 良い写真を撮るために、制作以外でやった方がいいことは?

飯沢 旅。いろんな場所に行った方がいい。

田中 私は「わからないものに執着すること」と「時間の余白を作ること」。自分への戒めでもありますけど、やって何になるかわからないことをやる。それが後々、自分のスタディになるんだと思います。

飯沢 旅をすると、そういう余白があるんだよね。

田中 そうですね。道に迷ったり、知らない道を歩いたり。そういう偶然の出会いが大事だと思います。

 

 良い写真を撮るには、やっぱり良い機材を使ったほうがいいですか?

飯沢 前回、上位の賞に入ったのはたしかフィルムカメラやオールドレンズだったけど、それは偶然だと思うよ。我々審査委員は機材のことは意識していません。大事なのは自分の表現意図に合っているかどうか。無理して高いカメラを買う必要はないですよ。

田中 私はカメラには詳しくないですが、今は誰でもスマホで撮る時代。結局は「何を見ているか」、視点そのものが勝負。画質が荒くても好きな写真は好きです。

 

 APAアワードならではの特別さは、どういった点にあると考えますか?

飯沢 50年以上の歴史がある賞というのは、今では貴重です。先人たちの受賞作品が積み上げてきた厚みは大きいと思います。

田中 毎年テーマが決まっているのも特徴ですね。大量の応募作品を1つのキーワードで横並びに見られるのは、審査をしていても特別な体験だと思います。

飯沢 「写真がよければテーマはどうでもいい」という意見もありますが、僕はテーマは大事だと思っています。見る側もテーマを意識して審査しますから、『鼓動』というテーマをどう解釈するのかはしっかり考えてほしい。賞金100万円も出ますし、この時代でも100万円あれば色々できますからね。

 

 写真を志す人へのメッセージをお願いします。

田中 アワードを通じて、たくさんの「はじめまして」に出会える感覚です。今回も、いろんな視点に出会えることを楽しみにしています。

飯沢 「見る前に飛べ」。考える前に、一回飛んでみる。それからしか始まらないことがあります。あなたの応募をお待ちしています。

 

インタビュアー:青山 波瑠香
2025年7月30日(水)写真集食堂めぐたまにて実施

ポートレイト写真:馬場亮太(APA正会員)